「鏡が浦の殺人」(横溝正史)

金田一耕助の事件簿 040

犯人をペテンにかける金田一耕助

「鏡が浦の殺人」(横溝正史)
(「扉の影の女」)角川文庫

「扉の影の女」角川文庫

心臓発作と判断された
江川教授の死に、
助手の加藤は異を唱える。
巧妙に毒殺されたのだという。
教授は前日、
海上のヨットの上で若い男女が
よからぬ陰謀を企んでいるのを、
ホテルのテラスの上から
読唇術で読み取っていたのだ…。

「扉の影の女」に併録されている
横溝正史の短篇作品です。
神奈川県の
鏡が浦のリゾート海岸という、
およそ金田一耕助には
似つかわしくない舞台ですが、
そこで起こる二件の殺人事件、
金田一はどう解決するのか?

【事件簿File-040「鏡が浦の殺人」】
〔事件発生〕
昭和32年7月(神奈川県鏡が浦)
〔依頼人〕
該当なし(金田一の滞在先で事件発生)
〔捜査関係者〕
等々力警部
…警視庁捜査一課警部。
 金田一の招待で鏡が浦へ静養中。
※所轄暑捜査主任が登場するが、
 名前は与えられていない。
古垣重人…法医学の最高権威。
〔事件関係者〕
江川市郎
…児童心理学者。大学教授。
 殺害される。
江川晶子
…市郎の長女。
江川ルリ子
…晶子の娘。生まれつき聾唖。
加藤達子
…江川教授の助手。聡明な女性。
加納辰哉
…江川教授の旧友。長らく海外在住。
 電気関係のエンジニア。
都築正雄
…辰哉の甥。辰哉が引き取り養育。
久米恭子
…正雄の恋人。
一柳悦子
…鏡が浦「望海楼ホテル」経営者。
 亡夫は一柳子爵。
一柳民子…子爵の妹。
一柳芙紗子…子爵の先妻の娘。
岡田豊彦
…芙紗子の友人。子爵の遠縁。

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本作品の味わいどころ①
今ひとつ「らしからぬ」金田一

金田一「らしからぬ」舞台・リゾート海岸。
しかも等々力警部とともに
美人コンテストの審査員まで引き受ける
「らしからぬ」行動。
「八つ墓村」「獄門島」
「犬神家の一族」とは
まったく異なる雰囲気です。
おどろおどろしさが希薄となり、
金田一「らしからぬ」というより
横溝「らしからぬ」雰囲気の
作品といえるでしょう。

ところがこの舞台、確か以前にも…、
と思い確認してみると、
なんと「傘の中の女」
舞台は鏡が浦の海岸。
しかも同じ昭和32年の事件。
鏡が浦はこの年、一夏に二件も
殺人事件が起きたことになります。
「傘の中」は休暇中の等々力警部が
金田一を骨休めに招待し、
本作品はホテルの女主人に
招待されていた金田一が
等々力を招くという、
いずれにしてもこの二人が
休暇を取って合流すれば
事件は発生するのでしょう。
これは金田一が
岡山県警の磯川警部とともに
山間のひなびた温泉に宿を取ると
殺人が起きるのと一緒です。

本作品の味わいどころ②
犯人に騙されかける金田一

江川教授の死を、
地元の監察医は「心臓発作」と判断し、
警察も金田一もそれを了承します。
しかしそれは病死に見せかけた
巧妙な毒殺。
それを見抜くのは金田一ではなく、
江川教授の愛弟子・加藤。
それだけでなく、
警察の頭越しに法医学の最高権威を
招聘するのですから
かなりの切れ者です。
金田一は見事に犯人に
騙されかけたことになるのです。

本作品の味わいどころ③
犯人をペテンにかける金田一

そのリベンジではないのでしょうが、
犯人捕縛のために
金田一は勝負に打って出ます。
それもなんとペテンにかけるような
邪道な方法で犯人を炙り出すのです。
本作品では
金田一の名推理は登場しないものの、
捜査関係者さえも騙して
見事犯人を特定する、
金田一の「知恵」に注目です。

短篇、しかも中長篇との併録であるのが
もったいないような作品です。
横溝にもう少し
創作の時間が残されていたら、
改稿長篇化もあり得たでしょう。
味わい深い短篇、
ぜひご賞味ください。

〔「読唇術」について〕
本作品に登場する「読唇術によって
他人の犯罪計画を知る」という
設定ですが、こちらも横溝は
「鏡の中の女」で使用しています。

また、江戸川乱歩
「妖虫」の冒頭で使用しています。
「妖虫」は光文社文庫刊江戸川乱歩全集
第8巻に収録されています。

こちらもオススメ!

(2018.1.18)

〔追記〕
2021年12月、
長らく絶版だった本書が
ついに復刊となりました。
冒頭のアイキャッチ画像は
復刊版の表紙です。
デザインはまったく変わりません。

(2021.12.29)

〔追記〕
こちらもご覧下さい。

墓村幽の味わえ!横溝正史ミステリー

ぜひチャンネル登録をお願いいたします!

(2023.8.1)

kordula vahleによるPixabayからの画像
おどろおどろしい世界への入り口

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【復刊!横溝正史・金田一耕助】

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